ニートの備忘録

ライトなニートが映画見てるだけ。

ハーモニー

今週のお題「プレゼントしたい本」


お久しぶりです。
ちょっと時間が空いてしまいました。
映画を見れていないとか、教習所に通い始めたとか、色々な理由があるのですが、一番の理由はタイトルにもしたそれです。

伊藤計劃の「ハーモニー」を、読破しました。
もちろん映画も見ています。
というか、映画→原作小説の順で見てます。
死者の帝国も映画は見ているのですが、これまた原作を読んでいないので後日こちらの話をすることにしましょう。
できたら虐殺器官も映画の公開前に読破したいですね。

話が反れましたが、ハーモニーですよ。
映画の時はあまり衝撃がありませんでした。
現代の日常生活の中ですら感じる、いわゆる読むためにまとっている空気や、他人から押し付けるように与えられる優しさに溺れそうな息苦しさ。
そんなものを「社会」から、つまり世界に押し付けられている少女達の物語です。
どちらの世界がいいかは受け取り手によって違うでしょうけど、自分はおぞましいなと思ってました。

おぞましいと思っている、と思っていました。
ハーモニー。
この作品の恐ろしさを、映画を見ただけの自分は知らなかったんです。

この本の恐ろしさは、本であるがゆえでした。
本というメディアが持つ、残虐なまでの暴力性を最大限に活用し、フルパワーでぶん殴ってくる。
ハーモニーは、そんなドメスティックな本です。
本を最後まで読むという自分なりの信念がなければ、放り出していたかも知れません。
おすすめの本ですが、あなたが読み切れるかはあなた次第でしょう。

ハーモニーとは、調和。
世界との調和を求める話です。
調和を押し付けてくる世界に、調和をもたらした話です。
進化の果ての成れの果てのような、そんな話です。

映画と原作小説では、流れはほとんど同じです。
いや、オリジナリティなんて挟む余地がなかった。
だってこれは、その成れの果てになるまでの過程を語った物語にすぎないから。
始まったと思った時点で、それは終わっていたんです。

手の出しようがないんですよ。
多くの人は、ああすればこうすればって、その物語を振り返ってハッピーエンドやバッドエンドや、とにかく「二次創作」に近いことを考えると思うんです。
それができないんです。
いや、もちろんできますよ。
でもそれをやったところで、行き着く先はきっと同じだったんです。
そんなことないって人もいるかもしれませんけど、自分の中ではそういうものだと思っています。

恐ろしい。
この話は、本当に恐ろしいんです。
もしも、なんて言っても、それは世界がまるごと作り変わるくらいのもしもがなければいけない。
今の世界で息苦しいと思っている人には、こんな世界は生きていけない。
なのに、死ぬことすら許されない。
既にその片鱗はあると思います。

いつだったか、Twitterで見かけたツイートです。
「今は、これ以上やったら死ぬとは言わない、現在の医療はなかなか死なせてくれないから、辛くて苦しいまま生かされ続けると言われた」
おぞましい社会ですね。
とくに日本なんて、人間への安楽死が認められていませんから。
ハーモニーの世界が、今の自分たちが暮らしいている世界の延長線上にあるんだなと感じてゾッとしました。

伊藤計劃の作品をすべて読んだわけではありませんが、死生観は一貫していると感じています。
それが、アプローチの仕方で180度違うものになる。
行き着く先は別の「地獄」に見えます。
そう、地獄なんですよ。
チープな言葉だと思いますけど、あえてこう表現させてください。
あなたは地獄を読むことになる。

本の暴力性と表現しましたけど、映画は受け取り手が受動的なメディアなんですよ。
座って画面を見ていれば、物語は勝手に進んでいく。
途中で席を立つことだって、寝てしまうことだって出来ますけど、そんなことをしたって勝手に物語は進んでいくんです。
映画は、映画自体が能動的に進んでいく。
だから観客は受動的になるメディアなんです。

なら、本はといえば、これは読み手が能動的になるメディアです。
自分が読まなければ物語は進まない。
作者の手を離れた瞬間、本というメディアは受動的になり、すべての動きは読者の手に委ねられるんです。

受動的に受け取ればよかった映画と違い、能動的に読み解かなくてはならない。
自分のペースで地獄に向かわなければならないんです。
これがどれだけ恐ろしいことか。
死にそうな気分を、絞首台にのぼるような、と表現されることが多いですが、これには当てはまりません。
逃げられる死刑台なんです。
今すぐ本を閉じ、本棚にしまい、いっそそんな本の存在など忘れることだってできる。
けれどそうしたところで、話の続きがきになってしまうでしょう。
あなたはまた本を開き、1行2行と読み進め、1ページ2ページと捲っていく。
また音をあげるかもしれない、いっそ本を放り投げるかもしれない。

けれど読まずにはいられない。
自分の息苦しさを証明するような世界が、そこにあるんです。
腕の中に地獄があるんです。

あまりうまいこと話せませんでしたが、ハーモニー、とても素晴らしい作品です。
映画も映像が綺麗で、ハーモニーの世界の「色」がはっきりしていて、理解をきっと助けてくれます。
伊藤計劃の「ハーモニー」
社会に対して心の根っこにある不安や恐怖をくすぐってくる作品です。
主人公のトァンと共に、それを読み解く旅に出てはいかがでしょうか。


ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)